戦国武将から学ぶ「企業の事業承継」①
戦国武将も悩ませた「事情承継」の難しさ
現代のビジネスにおいて、歴史から学ぶることは非常にたくさんあります。課題解決や戦略立案に役立つヒントを提供してくれています。
特に、戦国時代の武将たちが直面した「家督の継承」は、現代の企業の事業承継に多くの示唆を与えてくれています。
戦国武将たちの事情承継を参考にして、現代の企業を悩ましている承継問題に関する注意点や課題について考察してみましょう。
1. 承継者の選定
戦国武将たちは、後継者の選定に非常に慎重でした。後継者は家の命運を左右する存在であり、家臣団の支持を得ることや、他家との連携・統治能力が求められました。
結城家や脇坂家のように血縁関係を重視せず、実力や周囲の支持を重視するケースも多く見られます。
現代の企業承継でも、後継者の選定は最も重要な課題です。多くの中小企業では、社長の子供や親族が後継者となるケースが多いですが、それが必ずしも最善とは限りません。
むしろ、スキルセットやリーダーシップ能力、経営のビジョンが重視して、第三者に承継するという選択も必要です。
ただ、従業員への承継であれば予測できる課題は限られてきますが、外部から招聘した場合は非常にハードルが高くなる傾向にありますので、注意が必要です。
2. 継承プロセスの透明性と周囲の理解
後継者を巡る争いが、しばしば家の分裂や滅亡につながったことが戦国時代の歴史には数多くあります。
たとえば、織田信長も長男ということで織田家を承継しましたが、その資質などに不満を持っていた家臣たちが弟信勝を担いで家督争いが起きています。
企業承継のプロセスが不透明であると、従業員や取引先からの不信感を招くことがあります。
これにより、企業全体の士気の低下や、退職者の増加、さらに取引先の離脱などが生じる危険性があります。
承継の際には、透明なプロセスと、従業員や取引先との適切なコミュニケーションが重要です。
後継者が企業のビジョンを共有し、それに基づく方針を示すことで、従業員や取引先の信頼を得ることは非常に大事です。
3. 承継後の権限の移譲
戦国武将たちの中には、後継者に権限を移譲せず、実権を握り続けたケースもありました。
しかし、これが内部分裂や家臣団の不満を招き、最終的には家の弱体化につながることも少なくありませんでした。
例えば、北条家では先代当主の氏政が実権を握っていたため、豊臣政権への対応について後継者の氏直との齟齬が生まれ小田原征伐を招いて滅亡したと言われています。
企業承継においても、権限移譲のタイミングや方法が非常に重要です。現経営者がいつまでも実権を握り続けると、後継者が十分な経営経験を積む機会を失い、企業の改革が進まないことがあります。
また、「二頭体制」が続くと、意思決定が遅れたり、経営の方針が不明確になるリスクがあります。
承継において重要なポイントは権限の移譲であるため、なるべく速やかに完全に行うのがベストです。
4. 後継者以外のキーマンへの対応
戦国武将の後継者が家督を継ぐ際には、家臣団や周囲の支持を得ることが非常に重要でした。特に有力な家臣たちの支持を失うと、後継者が孤立し、内部抗争が発生するリスクが高まりました。
例えば、武田家では信玄から勝頼への継承の際に、信玄の家臣と勝頼に距離が生まれ、組織の弱体化につながったと言われています。
企業内にも、後継者だけでなくキーマンとなる幹部やベテラン社員が存在します。こうしたキーマンたちへの対応を誤ると、組織全体の士気低下や、重要な人材の流出を招きかねません。
事前に対話やコミュニケーションを重ねるなどの施策を打って、幹部社員やキーマンの支持を得ておく事が大事になります。
まとめ
戦国武将たちが家を継承する際に直面した課題は、現代の企業承継にも通じる多くの教訓を残しています。
後継者の選定、承継の透明性、権限の移譲、キーマンへの対応などが、成功するための鍵となります。
これらの要点を戦国武将の事例を参考にして、しっかりと押さえることで、企業は次の世代へと持続的な成長を引き継ぐことができるでしょう
モリアド代表 中小企業診断士
前職にて企業の海外WEBマーケティングの支援に従事。独立後に中小企業診断士の資格を取得し、主に企業の経営サポートやWEBマーケティングの支援等を行っている。
2019年から、現代のビジネスフレームワークを使って戦国武将を分析する『戦国SWOT®』をスタート。
2022年より、歴史人WEBにて『武将に学ぶ「しくじり」と「教訓」』を連載。
2024年より、マーケトランクにて『歴史の偉人に学ぶマーケティング』を連載。
著書に『SWOT分析による戦国武将の成功と失敗』(ビジネス教育出版社)。